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もう大人なのに

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#01 A book that is shut is but a block. (閉じられた本は塊でしかない)

頒布予定の「ふじょゆり」より抜粋してご紹介です。

「腐女子+百合」というインフラを成立させたい一心です。

恋してる。ヒーローに、魔法少女に。
だから視界はいつも平面の世界。漫画もアニメもゲームも大好き。立体の、3Dでもバーチャルでもない場所に魅力はない。わたし、有海ゆうはディープ・ヲタだ。家族はわたしがヲタクだってことを知ってる。けれども、家族が知らないことがある。

それは、腐っているってこと。

BLもGLもNLも大好き。ヲタクならどんなジャンルも境界はなし。高校生になったら同人誌をつくろうってずっと決めていた。自分でバイトしておこづかい貯めたら、そのお金でつくろうって。

中 学校の絵画部で先輩たちの描くイラストや漫画がものすごく上手だったのがきっかけだ。一年生のときは水彩画のコースを選択していたけれど、二年生になって からイラストのコースを選んだ。画材は好きに使えたから、そこで画力をぐんぐん磨いた。先輩たちはいろんなことを教えてくれた。面白い漫画やアニメ。二次 創作のこと。同人イベントやお絵かきサイトや著作権のことまで。中学を卒業して高校がはじまるまでの間に、わたしはアルバイトをした。といっても、知り合 いの店の手伝いだ。お小遣いだけで高い画像編集用のソフトを買えるわけがない。とにかく真面目に働いた。ようやく、目当てのソフトを手に入れたときは、嬉 しかった。買いに行くときだってドキドキした。店員さんにソフトのケースを渡す瞬間はとても貴重なものに思えた。パソコンにインストールして、モニタに向 き合って、自分だけに与えられた認証番号のキイを打ち込むときは興奮した。

明日は入学式という夜。作画した絵をスキャナで取り込んで画質調整、さくさく彩る。早く寝ないとならないのはわかってる。だけど、やめられない。
今 はまっているのは、あるライトノベルの二次創作だ。中学のときから大好きで、きっとこのジャンルで本を出すんだって決めていた。けれども永すぎた春は罪深 い。イベントに参加できるようになった今では急速に人気が落ちている。アニメが終了して、グッズばかりが販売されている。そして、とにかく原作の続編が出 ないのだ。オワコン、つまり終わったコンテンツ、なんて言い出す人もいた。

正直言って萌えに終わりは無い。

けれどもこれ じゃだめかなって思い始めていた。せっかくサークル参加できるようになったのに。大好きだった大手のサークルさんも撤退。オンラインでつながっていた仲間 たちも、ちらほらと話題を別のジャンルへと移していく。わたしは例えこの世で最後の一人になったとしても、そのジャンルを愛していたい。
けれど、 そうなると、画力が必要だ。わたしの実力があれば大丈夫! と言い切れるほどの実力がほしい。もしも人気があるときに本をつくりはじめていたら、自分の一 番の武器、実力、即ち画力に目を向けるなんてことにならなかったろう。自分の一番の武器ってつまりはコンプレックスのことだ。画力を上達させるためにも、 その劣等感を打ち破る必要がある。

けれど、やっぱり寂しいよ…

入学したら本格的にバイトをはじめて、印刷費用とイベント代を稼いで、そのジャンルでサークル申し込みをするつもりでいた。けれども、なんとなく、迷いが生じてしまっている。
夜 の部屋でそっとため息をついた。今日は友達が勧めてくれた新しい春アニメでも見てみようと思う。わたしは深夜アニメを見逃すことが多いけど、週末の夜に ネットで配信してくれるというのだ。そのアニメのタイトルを検出する。たしか『タイニー&ハニー』といったっけ。動画サイトの無料配信。ほんのBGM代わ りに見ようと思っていた。
それが悪かった。甘かった…
そのアニメの出来は素晴らしかった。すべてに目新しさを覚える。目が離せなくなった。そう、わたしは天啓を得た。
そ れは近未来を描いた光に満ちた世界の物語。軽快で明るく入りやすいメロディ。オープニングから完璧だった。本編はオーソドックスな世界観だけれど、シンプ ルで頭に入りやすい。背景も人物も作画が洗練されている。疲れないテンポの軽妙な台詞まわし。そして、現実のスポンサーのクレジットを演出にうまく組み込 むという斬新な設定。
何よりもキャラの魅力!
特別な能力者たちが犯罪を阻止するために日夜努力している未来都市。彼らはボランティアとし てのヒーローではない。彼らの活動を実況することで視聴率を稼ぐためスポンサーがついている。ヒーローというより、タレントのようなシビアな業界だ。主人 公はもう盛りをすぎた中年のおじさん。おじさんの熱意は誰よりも強いし、正義感も充分にある。けど、先走った行動や能力で、市中の公共物や建物をやたらに 壊してしまう。若いときには自信にも溢れていたけど、ヒーローとしての人気も下火。所属会社もつぶれてしまう。新しく配属された会社では強引な上司が待っ ていて、能力は充分なのに生意気な若者とタッグを組まされる。おじさんの「若くない」哀愁を生かすことで、ヒーローたるものの特質がかえって浮き彫りにさ れる。そのテーマ性。おじさんの不幸に漂う愛惜だけでも魅力がある。それに加えて、ハニーと呼ばれる相棒の青臭さが対比をなす。そこには言葉にあらわせな い色気があった。しかも、二人はホモだとしか思えないような絡みの場面がふんだんに盛り込まれていた。完全にわたしのような腐女子に狙い定めて製作された アニメだ。狙いがわかっているのに落ちずにいられなかった。
そう。わたしは天啓を得た。アニメを見終えてからも興奮が冷めやらず、部屋をうろうろした。なんて面白いんだろう。なんて素敵なんだろう。何よりも主人公の受度の高さを叫びたい。
おじさん受のポテンシャル高え!
我慢しきれずに短文の情報通信サービスで散々萌えを叫んだ。イラストに特化したSNSに落書きを連投した。朝の4時になっても起きていた。その上、申込書をこのジャンルで記入してしまおうと、棚のなかを探し始める。もう駄目だ。
朝の7時には家を出ないとならないのに…もう、眠れない。

翌日の朝。親に急き立てられながら、真新しい制服を着込むわたしの目にはひどい隈ができていた。魔法少女アニメの主人公なら、いつでもしゃっきりと身づくろいしている。けれども、わたしときたら、ブラウスシャツの釦の掛け間違いに気づかないままブレザーを羽織る始末。
それでも悔いはなかった。あれだけ萌えを叫ぶことができたから構わない。
肉体的疲労を凌駕せよ己が精神! 
中学校二年生の妄想じみたことを脳内でつぶやきながら支度する。

記 念写真を撮影したがる親に式のあとにしてくれるよう頼む。学校の校舎に入って、一旦、中庭に向かう。そこで式次第と入学の案内と学校内の地図を受け取っ て、直接体育館に向かう。真新しい上履きは廊下にきゅっきゅと新鮮に響き渡った。確かにわたしは悲しいくらいに不案内な新入生だった。
中身が、どんなに腐っていようとも。
体育館へ向かう通路の脇には桜が植えられていた。舞い散る花びらは風雅で麗しい。ああ…
こんなに清廉な景色なのに、わたしはそこに立っている自分の新しい門出だということも忘れて、この場におじさんが立っていたら、さぞやハニーは興奮するだろうなあ…などと不埒なことを考えていた。
おっと、よだれが。

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